夜桜









夜の広場の中、
月明かりに照らされ、
ざあぁっ…と桜の花びらが舞散る。



その、幻想的な風景に魂までも奪われそうで。

思わず隣に立つ弟を見上げた。


その気配を感じたのか、
アルがこちらを覗きこんでくる。



「どうしたの?兄さん」

その不思議そうな声色で自分の心配の馬鹿らしさに気付く。

苦笑してなんでもないと答え、
改めて、咲き誇り舞い散る桜に目を向ける。













…馬鹿らしいと思いながらも、
いつも脳の片隅にこびりついて離れない想像を、
この綺麗な風景は思い出させる。





はかなく散りゆく花びらのせいか…



それとも桜にはなんらかの魔力でもあるというのか…。





そんなおおよそ錬金術師らしくないことを考えていると、


「綺麗すぎてなんだか恐くなるね」

アルがつぶやいた。


それはそのまま自分の心境を言葉にしたようで…。
それでもその感情に蓋をして、努めて明るい口調で話す。



「ばぁか。なんで綺麗なのに恐いんだよ。
綺麗なら綺麗でいいだろ?」

「そうだけどさ…」

アルは不服そうな声を上げるが、
それをさえぎって、


「ほら。もう帰ろうぜ。
明日は朝一の列車に乗らなきゃだからな」


そう言って宿に向かって走りだす。

「あ!待ってよ兄さん」

慌てる声にカシャンと鎧が走りだす音が重なる。

アルが追いついてきたのを確認して宿へと向かって歩き出す。


明日へと進むために。


















こんなところで捕われている場合じゃない。









前へ進まなきゃならないから。





決して振り返らない。










舞い込んでくる花びらなんて見ない。












終わり




桜の季節に先駆けて。  
怖いものは後ろから沢山来るんだけど、  
エドは見ないんです。  
見えないんではなく、  
見ない。  
  
ところで私、桜と大佐が書きたかった筈なんですが…  
気づいたら大佐がいませんでした。  
またそのうち大佐と桜を書こう。  


 そのうちとか言ってるうちに春が終わってしまいました。  
2004/7/17